LIBERTY
TRABELERS
Episode2 第4話
MoonLight Faith 4
 
 
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 魔法能力者
 
 ケインが、その名称を父から聞かされたのは、5歳の時だった。
 
 
「マホウノウリョクシャ?」
『そうだ、私達の様に魔法を扱える人間の事をそう呼ぶのだ』
「ボク、マホウ使えるよ!」
 その時ケインは、覚えたばかりの魔法をその小さな手から繰り出した。
 ケインの手と手の間には、小さな空気の渦が逆巻いていた。
 父親は、そんなケインを見て小さく笑った。
『ハッハッハ。だが、魔法は誰にでも扱えるものではない。我々のように、その代々受け継がれた血の力によって魔法を使える者は、ほんの少しだ』
「チノチカラ?」
 ケインは、不思議そうに、その言葉を繰り返した。
『全ての人々が我々のように、家族全員が魔法を使えるわけではない。我々は特殊なのだ』
「トクシュって?」
 その時ケインは、その話をよく理解出来なかった。
『いいか? その魔法の力は誰にでも扱えるわけではない。その力は、この国の正義をもたらすために、おまえに与えられた特別な力なのだ』
 その時ケインは、胸の中で何か熱いものが拡がっていくのを確かに感じた。
「マホウって、セイギの力だったんだ! じゃあボク、もっといっぱいマホウを覚えるよ!」
 ケインは、その後たくさん魔法の練習をして、その手の中にあった風の魔法を、小さな帽子を宙に浮かせられる風を起こせるまでにした。
 
 
「ウ、ウウン」
 ケインは、すぐ間近でその声を聞いた。
 何処かで聞いたことがある声だ。
「ウウン」
 声は、耳元で聞こえる。
 ケインは、そっと目を開けた。
 目を開けるとそこには……?
 そこには、オフェリアの寝顔があった。
 
(え?)
 ケインは、気が付くとベッドの上で寝ていた。
 オフェリアも、その同じベッドの上に寝ていた。
 しかも、そのオフェリアの寝顔は、ケインの目と鼻の先にある。
(オ、オフェリア、何で? ……そ、そうだ)
 ケインは、つい先程までチャムの教室にいたはずだ。
(それから……煙に巻かれて? どうしたんだっけ?)
 あと、何か重大なことを思い出せない気がする。
(ええと? ……んん?)
「ウウン?」
 その時、オフェリアがその重そうな瞼を開けた。
 オフェリアは、とろりとした目でケインを見つめる。
「お、オハヨウ」
 ケインは、とりあえずオフェリアに挨拶をしてみる。
「・・・・・・」
 オフェリアは、ケインをじっと見た。
 そのケインを見つめる瞳は、段々と眠気が抜けていく。
 
「……ケイン? 私……どうしたの?」
「え?」
 ケインは、拍子抜けた。
 ケインは、オフェリアのことだから、口を開けたとたん何を言われるかと構えていた。
 だが、次の言葉を聞いたとたん、そんな事は頭の中からぶっ飛んだ。
 
「私、アンタのこと……殺そうとした」
 
 あまりの意外な言葉に、ケインは一瞬言葉を失った。
「みんなのことも……殺そうとした」
「はあっ?!」
「チャムのことも、殺そうとした。私は、チャムのことが好きなはずなのに」
「なっ、何いってんだよ?!」
 オフェリアは、ケインのから目を反らした。
 そして、掛け布団を自分の方に引き寄せる。
「……でも、それで良かったのよ。何処に逃げようとしたって、違う街に逃げたって、何も変わらない。変わりっこない」
 オフェリアは、ケインに挑む様な視線を向けた。
「もうすぐアイツらがここに来るはずよ。私、あの工場跡をぶっ壊そうとしたから、魔電灯のブレーカーが、火を噴いて壊れた。アイツらが、あれの魔法力変化を見逃すはずないからね」
「オフェリア、それって……?!」
 ケインは、そのオフェリアの言葉の意味を問おうとした。
 だが、その時二人には、そんな余裕すら残れていなかった。
「あんた達、早く隠れて!」
 その時、おばちゃんが血相を変えて部屋に駆け込んできたからだ。
 おばちゃんは、部屋に入ってくるなり、傍にあった本棚を横にスライドさせて動かした。
 すると、そこに秘密の抜け道への入り口が現れた。
「おばちゃん、奴らが来たのか?!」
 ケインは、ベッドから飛び起きた。
「そうだよ、あの人と、先生が足止めをしているから、その間に早くこの中に!」
「わかった。おいっ、オフェリア?」
 ケインは、まだベッドから半身を起こしただけのオフェリアに声を掛けた。
「なあに? 私なら、ここにいたって平気よ。あんな奴ら、恐くないわ」
「オフェリア?」
「何言ってんだいっ?! この子は!」
 ケインと、おばちゃんが慌てるのを、オフェリアは冷たい眼差しで見据えた。
「だって、例え掴まったにしても、アイツらはそこそこの魔法が使える程度の奴らよ。ちゃんとした威力のある魔法を使える私に敵うわけないじゃない。あんな奴ら、私が蹴散らしてやる!」
 オフェリアは、そういうとベッドから飛び起きた。
「臆病者は引っ込んでなさい!」
 オフェリアは、ケインに余裕の笑みを見せると、部屋を出ていこうとした。
「お待ち!」
 そのオフェリアの手を、おばちゃんが捕まえる。
「オフィ! それはいくら何でも無茶というもんだよ。
 例え、オフィが奴らを蹴散らすことが出来たとしても、その後その大騒ぎの始末を付けるのはおばちゃん達なんだ。どういう風に近所の人を言いくるめたらいいんだい?」
 おばちゃんは、強い口調でオフェリアにそう尋ねた。
「そんなの、私が何とか誤魔化すわよ。私の演技力、知ってるでしょう?」
 オフェリアも、おばちゃんに負けじと強い口調で言い返す。
「その後はどうするんだい? ここに、魔法力反応が出たとなれば、ここを奴らは徹底的にマークするようになる。オッフィーが捕まるのは時間の問題だよ?」
「大丈夫よ、その時だって、逃げ切る自信ぐらいあるわ」
「逃げるだなんて、そんなことはさせないよ」
「えっ? どういう事よ?」
 思わず聞き返したオフェリアの肩に、おばちゃんは両手で掴んだ。
「その時は、オッフィーにその後始末を手伝ってもらう。
 アンタは、この店をマークに来た奴らを追い返す仕事をやってもらうよ。騒ぎを起こした罰としてね」
「なっ、なんで私がそんな事!」
 文句を言いかけたオフェリアの口を、おばちゃんは塞いだ。
「シーッ、静かに。奴らに聞こえるだろ?」
 そして、悪戯っぽく少し笑った。
「それが嫌なら、騒ぎなんか起こさないでおくれ。あんな奴ら、オフィが出る幕でもないさ。切り札は、大きな顔して控えてればいいさ」
 オフェリアは、おばちゃんの「切り札」という言葉に、眉を潜めた。
「……そうね、あんな奴ら、私が出る幕でもなかったわね。わかった」
 オフェリアは、少しばかり不満そうだったか、おばちゃんのいうことを聞いた。
 
 
 バタンッ
 
 部屋の扉は開かれた。
「いやー、すいません。余計な出費を減らそうと、魔電灯のメンテナンスを怠ったもんだから、そのことがこんな騒ぎになって」
「おじさん、気を付けてくださいよ。僕の生徒達が大変な目にあうところだったんですから」
 おじちゃんと、チャムが部屋に入ってきた。
 ケインと、オフェリアは、あれから急いで秘密の抜け道に飛び込んだ。
 おばちゃんが、扉を閉めたと同時に、奴らを連れたおじちゃん達が部屋に入ってきた。
 それは、正に危機一髪といっていい。
「ほう、ご婦人はここにいたのか」
 奴が、おばちゃんに声を掛けた。
「ええ、母親が娘の部屋に入ったら駄目なのかしら?」
「いいや、ウチの娘は、意地でも入れてくれませんがね」
「それはそうは。魔力監視員さんも、人の親だったなんて。私達の娘を勝手に攫っておいて、よく自分の娘の話が出来るものだわね?」
「攫ったのではない!」
 おばちゃんの辛らつな言葉に、その魔力監視員は言葉を荒げた。
「攫ったのではない! あのアンジェリカという娘は、優れた魔法能力を持っていた! 我々が、それを見出し、この国のために役立てようとしているのだ! その娘は、将来を約束されたエリートではないか!」
「アンは、そんな事望んじゃいないよ!」
「いいや、我々はあの娘のためになる事をしたのだ!」
 おばちゃんと、魔力監視員は睨み合った。
「これ、ミネバ、やめなさい」
 おじちゃんは、緊迫する二人の間に入った。
「すいません、ウチの家内は、今日はいつもより機嫌が悪いようです。これ以上、家内の機嫌が悪くならない内にお帰りください。さあ、お早く」
 そして、魔力監視員は、おばちゃんをキッと睨み付け、カーミン宿屋から出ていった。
 
 
 窓から見える月は、今日も美しかった。
 少女は、その月を見上げていた。
 月は、その白銀の光を、真っ黒に広がる闇の中で淡く輝やかせていた。
 その月の明るい光は、何処にいても平等に降り注いでいる。
 その女の子は、きっとこの月の光が出掛けているオフェリアや、ケインにも降り注いでいるのだろうなと、ぼんやり考えていた。
 女の子は、窓硝子に手を掛ける。
「えっ?」
 女の子は、窓の外に何か動く影を見た。
(オフェリア、帰ってきたの?)
 ここは、ケイン達が学んでいる学園の女子寮にある、オフェリアと、女の子の部屋だ。
 今は、オフェリア達は学園を無断で抜け出し、女の子はその留守番をやっている。
 オフェリアと、女の子は相部屋だ。
 オフェリアが出掛けている間、女の子がアリバイ工作をしている。
 オフェリアのベッドには、あたかもオフェリアが寝ているように、色々な物を人の形に象って置いてある。
 今日は、オフェリアの帰りがいつもより遅い。
 女の子は、月をボーっと眺めながら、何時帰ってくるかと待っていた。
「オフェリア、お帰り!」
 女の子は、窓を開けようとした。
『ダメだよ、メアリ』
 女の子は、後ろから誰かに手を掴まれた。
「誰?」
『ボクだよぉ、君ならわかるでしょう?』
「あっ……!」
『そうだよ、メアリ。わかってくれたんだね』
 女の子を掴んだ手が、今度は首筋に絡み付く。
『メアリ、君はボクの名前を知ってるね?
 それでも、君はボクを拒むんだね?
 でもね、もうすぐ君はボクのことを拒めなくなるよ。その時がボクのディナータイムさ』
 
 ガチャッ
 その時、窓が開いた。
「メアリ、ただいま。どうしたのよ、ボーッとして。誰かやって来たの?」
 女の子は、窓を開けて入ってきたオフェリアに言った。
 
「オフェリア……魔物が出たよ」
 
 
to be continue
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